大判例

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東京高等裁判所 昭和61年(う)118号 判決

被告人 宮田直作

〔抄 録〕

被告人は原判示のとおり車両を運転して、右方の交差道路に対する見通し困難な同判示交差点を直進通過しようとした際、右交差点手前で一時停止の道路標識に従って一時停止したものの、カーブミラーによる右方の交差道路に対する安全確認が不十分であったため、自転車に乗って右の交差道路から交差点に進入しようとしていた被害者の存在に気づかず、時速約二〇キロメートルの速度で右交差点を直進通過しようとした結果、至近距離に迫ってはじめてこれを発見し、急制動の措置を講じたが及ばず、衝突するに至ったことが認められる。してみれば、右の具体的状況上、被告人としては見通しの悪い右交差点に進入するに際しては、あらかじめ右方の交差道路に対する安全を確認したうえ、交差点に進入すべき注意義務があったものといわなければならず、被告人に右の注意義務の違反を内容とする過失のあることは明白である。そして、被害者側にも左方交差道路に対する安全確認義務を怠った過失の存することは否定できないとしても、所論のいうように、本件当時被告人が右方の交差道路から交差点に進入してくる自転車がないものと信頼することが許されるべき特別の事情が存在したとは到底認めることができない。けだし、被害者が当時通行していた道路の交差点手前には、所論が指摘するように路面に白いペイントで逆三角形内に「とまれ」という文字と自転車の記号のえがかれている表示の存在することが認められるが、右表示は、道路交通法四条及び「道路標識、区画線及び道路標示に関する命令」(昭和三五年総理府・建設省令第三号)が定める交通規制のために設置する道路標示の中に含まれているものではないのであって、それは単に、所轄警察署が、道路交通法上一時停止することなく交差点に進入することができる自転車に対し、交通安全確保の見地から一時停止するよう指導する趣旨で表示されたにすぎないものと解せられる(東京高裁昭和五九年九月一三日判決・東高時報三五巻八・九号七四頁参照)。したがって、本件交差道路側に右の表示が存在するからといって、被告人が原判示当時の具体的状況上、前記のとおり交差道路に対する安全確認義務を負うことにかわりはなく、被告人において右道路表示に従わずに交差点に進入しようとする車両のあり得ることまでも予想すべき注意義務がないとすることは到底できない。本件について信頼の原則の適用がないとした原判断の結論は正当として是認できる。

(寺澤 片岡 横田)

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